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「金地金が相続財産になるか否かで争った事例」

2016.11.16

税理士法人レガートの“税務調査ブログ”。(Vol.115

 

■「金地金が相続財産になるか否かで争った事例」

 今回は、納税者(相続人)が「金地金」の一部を秘匿し相続財産に含めずに申告を行ったとして、税務署が相続税の更正処分と重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、納税者が「そのような金地金は存在しておらず、税務署の認定は誤りである」として税務署の処分の取り消しを求めた事例をご紹介します。(平成27年5月8日裁決)

 

 事案の内容は次の通りです。

○平成23年9月○日に死亡した父Dの相続に係る共同相続人は、父Dの子A、E、F、G、H及び亡Jの代襲相続人である孫Kであった。

○父Dは、平成16年7月に金地金(合計重量7,000g)、平成19年8月に金地金(合計重量11,400g)をそれぞれ取得した。

○父Dは、平成20年10月、金地金の一部(合計重量1,500g)をKに贈与し、その後、KはP社(金地金の取扱業者)にそれぞれを売却した。

○父Dの死亡に伴い、相続人らは相続税の申告書に2,300gの金地金を取得した旨記載して申告した。

○その後、相続税の税務調査が行われ、税務署は金地金14,600gが申告漏れであるとして更正処分を行い、重加算税を賦課決定した。

 

 なお、被相続人の生前の生活状況は次の通りでした。
 

○父Dは、平成14年5月から平成20年8月までd市にて一人暮らしをし、同日から同年9月までg市に所在するQ病院に入院、Q病院を退院した同日から平成23年7月まではAとa市の家屋にて同居し、同日から本件相続開始日まで、a市に所在するR病院に入院していた。

○父Dは、Q病院を退院してAと同居するようになった平成20年9月以降、Aに指示をして、父Dの預貯金の入出金、銀行振込等の手続等を行わせていた。

○父DとAは、平成22年2月、父Dの生活療養看護並びに不動産・動産等全ての財産の保存、管理、及び処分に関する事務をAに委託する旨の契約を締結し、これを証する公正証書を作成した。

 

 以上の事実関係を前提に、税務署は次のような見解を示しました。
 

○相続開始日以前に父D又は委任を受けたAの管理下には多数の金地金の保有が推認され、売却及び贈与の事実はないことからすると、金地金は本件相続に係る相続財産である。

○次の通り金地金の保有状況があるので、これらの状況から多数の金地金が保有されていたと推認される。

(イ)平成20年5月頃、Gが父Dの自宅に多数の金地金が保有されているのを見たことがあった。
(ロ)平成20年10月頃、Kは、父Dが金地金1,500gをKに引き渡した際、同席したAからこれ以外の金地金を見せられ、本件居宅に多数の金地金が保有されているのを確認したことがあった。
(ハ)父Dが作成した平成20年11月付遺言公正証書には、Aに相続させる相続財産として「金地金の全部」と、金地金が存在することを示す記載がされていた。

○父Dの行動範囲並びに本件金地金の売却先と想定したT社本店において、本件金地金の取得日から平成25年8月31日までの売却事実を調査したところ、本件金地金の売却事実は把握されていない。また、A、F、G及びHは、父Dが金地金を売ったという話を聞いたことはなく、また、同人らは父Dが金地金を売ることはないと認識している。

○父Dは、金地金を売却した旨の所得税の確定申告書を提出していないことから、父Dが相続開始日以前に本件金地金を売却した可能性は著しく低いものとみるべきである。

○そして、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図に基づく過少申告をしたものということができるから、重加算税の賦課要件を満たすものである。

 

一方の納税者の主張は次の通りです。
 

○相続財産となる金地金は、父Dが作成した平成23年2月付遺言公正証書に記載された2,300gが実在の重量であり、税務署が主張する金地金は、Aが取得した相続財産ではない。

○税務署が主張する上記の各事実が仮に存在したとしても、それらの事実より後に作成された平成23年2月付遺言公正証書には「金地金の全部(本遺言作成時の在り高2,300g)」と記載がされていることから、遅くともこの時点には、Aが申告した以外には金地金がなかったことは明らかである。

○税務署の主張する各事実が仮に存在したとしても、それらのみから、本件金地金の売却事実がない、あるいは、贈与の事実がないとの認定には至らない。

○税務署は事実を誤認しており、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。

 

 最終的に国税不服審判所では次のような判断を下しました。

○税務署の主張は、①父Dの下に多数の金地金が保有されていたこと、②金地金取扱業者等に対する売却の事実がないこと、③Kを除く各共同相続人等への金地金の贈与の事実がないことから、本件相続開始日において、父D又はAの管理下に本件金地金が存在したとするものである。

○しかしながら、上記①から③までの事情は、本件相続開始日に本件金地金が父Dの相続財産として存在したと認めるには十分とはいえず、他に税務署の主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件金地金は、Aが取得した相続財産であるとは認められない。

○本件金地金は、Aが取得した相続財産であるとは認められないから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。そして、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、重加算税の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

 

 いかがでしょうか。相続財産として相続税を課税するためには「あったはずだ!」というだけでは課税できず、その存在事実を国が立証しなければならないということを示した事例になります。
 今後のご参考になれば幸いです。

(つづく)

 

 

今回もお読みいただきありがとうございました。

税理士法人レガート 税理士 服部誠

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