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親族への役員給与が否認され重加算税が課された事例(法人税調査)

2023.06.05

親族への役員給与が否認され重加算税が課された事例(法人税調査)

法人が役員に支払う給与は、その役員の職務内容に見合った適正な金額を、毎月(定期)同額で支給することで、法人の損金算入が認められます。
今回は、法人代表者の親族への給与や顧問料が代表者の役員給与とみなされ、尚且つ、仮装給与として重加算税も賦課された事案をご紹介いたします(平成31年2月13日神戸地裁判決)。

事案の概要

今回の事案の概要は以下の通りとなります。

  • 医療法人M社は、その理事長Aの親族(妻B、長男C、次男D)に対して役員報酬、給与手当及び顧問料の支払いをし、支給した金額を損金として法人税等の確定申告をしていた。
  • M社の税務調査が行われ、親族BCDに支払った金額は理事長Aに対する役員報酬に該当するとして、M社は法人税等の更正処分を受けるとともに、重加算税の賦課決定処分を受けた。
  • M社はこれを不服として審査請求を行ったが、国税不服審判所において棄却されたため裁判で争うこととなった。

親族への役員給与が仮装給与に該当するという税務署の主張

親族への役員給与が仮装給与に該当するという税務署の主張

本件に関する税務署の主張は次の通りです。

1)妻Bへの役員報酬について

  • 振込送金を決定したのはAであったうえ、その当時のB名義の口座はAが管理支配しているものであった。また、Bは、M社の理事として職務を行ったことがなく、Bが理事を退任した後も本件給与の振込送金がされていた。
  • そうすると、本件給与はBに対する役員報酬に仮装して、理事長であるAの給与(報酬)として支給されたものであることが明らかである。従って、本件給与は法人税法34条3項所定の仮装給与に当たる。

2)長男Cへの給料手当について

  • 振込送金を決定したのはAであったうえ、その当時のC名義の口座はAが管理支配しているものであった。また、Cは平成18年以降、別の病院に勤務しておりM社には勤務したことがなく、Cが理事を退任した後も本件給与の振込送金がされていた。
  • そうすると、本件給与はCに対する給料手当に仮装して、理事長であるAの給与(報酬)として支給されたものであることが明らかである。従って、本件給与は法人税法34条3項所定の仮装給与に当たる。

3)次男Dへの顧問料について

  • 振込送金を決定したのはAであったうえ、その当時のD名義の口座はAが管理支配しているものであった。また、Dは、その当時、顧問としてM社に助言等をした形跡がなく、M社との間で顧問料の支払いについて合意したこともない。
  • そうすると、本件顧問料はDに対する顧問料に仮装して、理事長であるAの給与(報酬)として支給されたものであることが明らかである。従って、本件顧問料は法人税法34条3項所定の仮装給与に当たる。

親族への役員給与は仮装給与に該当しないという納税者の主張

一方の納税者の主張は次の通りです。

1)妻Bへの役員報酬について

  • AはB名義口座の通帳や印鑑を管理していたが、Bから委託を受けて行っていたに過ぎず、本人確認の問題等により同口座の預金を自由に利用することはできなかった。
    またBは、M社の理事に就任し、その職務を負担していた。この点、医療法人の理事の報酬の額はその業務の多寡により左右されるものではない。
    従って、本件給与はBに対する役員報酬であるから、仮装給与には該当しない。

2)長男Cへの給料手当について

  • C名義口座に係る貯金は、AではなくCに帰属していたものである。そして、CはM社の理事に就任し、その職務を負担していたうえ、源泉徴収票も受領していた。従って、本件給与はCに対する給料手当であるから、仮装給与には該当しない。

3)次男Dへの顧問料について

  • D名義口座に係る預貯金は、AではなくDに帰属していたものである。そして、DはM社と顧問契約を締結していたからM社の相談に応じる義務を負っていた。
    従って、本件顧問料はDに対する顧問料であるから、仮装給与には該当しない。

裁判所の判断

裁判所の判断

両者の主張を聴取し、事実関係を調査した神戸地裁は次のように判断しました。

1)妻Bへの役員報酬について

  • Bは、毎年1回開催されるM社の定時社員総会に出席し、M社が開催する行事にAの妻として出席するほかは、M社に関わる仕事をしたことはなかった。また、Bは、毎年1回程度開催されるM社の理事会に出席したことはなく、上記定時社員総会において発言等をしたこともなかった。
  • M社は、理事の報酬規程を定めておらず、Bへの給与の支払及びその額はAが決定していた。そして、Aは、B名義の口座を開設当初から、その通帳及び届出印を保管していた。
  • BがM社の常任理事を退任した平成26年5月以降も、本件給与がB口座に振込送金されていたことからすると、本件給与は、BのM社の常任理事としての職務の対価として支払われたものではなかったと認められる。
  • 以上からすれば、本件給与は、Bに対する役員報酬に仮装して、M社の役員(理事長)であるAに支給された給与であると認められるから、法人税法34条3項所定の仮装給与に該当する。

2)長男Cへの給料手当について

  • Cは、M社の理事に就任したことをBを通じて知り、その後も、毎年1回程度開催されるM社の理事会に出席したことはなかった。
  • M社は理事の報酬規程を設けておらず、理事長であるAの一存で本件給与の支払及び額が決定されていた。
  • CはM社の理事に就任して以来、その地位に相応しい職務を行っておらず、また、平成18年以降、M社において医師として給与を受けるに相応しい勤務をしたこともなかった。
  • CがM社の理事を退任した平成26年5月以降も、本件給与がC名義の口座に振込送金されていたことからすると、本件給与は、Cの理事又は医師としての職務又は労務の対価として支払われたものではなかったと認められる。
  • 以上からすれば、本件給与は、Cに対する給料手当に仮装して、M社の役員(理事長)であるAに支給された給与であると認められるから、法人税法34条3項所定の仮装給与に該当する。

3)次男Dへの顧問料について

  • M社の理事長であるAの一存で本件顧問料の支払及び額が決定さていた。
  • Dは平成19年11月以降、主に外国に居住しており、M社から相談を受けたことも、M社に対して医療文献を提供したこともなかった。
  • そもそもM社とDとの間で顧問契約が締結された事実はなく、本件顧問料は、Dの顧問としての職務の対価として支払われたものと評価することはできない。
  • 従って、本件顧問料は、Dに対する顧問料に仮装して、M社の役員(理事長)であるAに支給された給与であると認められるから、法人税法34条3項所定の仮装給与に該当する。

仮装給与とされる場合の判断基準

いかがでしょうか。
職務の実態がない給与は、そもそも法人の損金にはなりません。
さらに、それが代表者の親族への支払いとなると、代表者本人への給与とみなされて課税の取り扱いが行われることがあります。
今回の事案では「仮装給与」と認定されたため、重加算税の対象にもなっていました。

税務調査において、代表者の親族への給与等は必ずチェックされる項目です。
職務の実態と職務内容に応じた金額であることを説明できるようにしておくことが、重要なポイントになります。

この他にも、親族への給与・役員報酬支払いに対する税務調査の事例をご紹介した記事がございますので、こちらも併せてご覧ください。

親族への給与・役員報酬支払いに対する税務調査の事例記事

親族に対する非常勤役員報酬(法人税調査)
大学在学中の長男に給料を払ったら?

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