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死亡直前に引き出した預金(相続税調査)
2021.04.19
被相続人の生前の預金の動きは、常に税務調査の対象となります。それが死亡直前に引き出されたとなれば尚更で、引き出された現金が死亡日までに被相続人によって消費されたのか、それともどこかに保管されていたのか、その結果によっては、相続税額が大きく変わってきます。
今回は、被相続人が死亡した前日に解約された定期預金について争われた事案をご紹介します(平成30年4月24日裁決)。
事案の概要
- 被相続人Aは自己が取引する金融機関(農協支所)に家族が運転する車で出向き、定期貯金3口座を解約し、現金約2200万円を受領して自宅に持ち帰った。
- その翌日、Aは自宅において急死した。
- Aの配偶者と子らの相続人は、Aの相続財産について遺産分割協議を成立させ、相続税の申告書を提出したが、上記の2200万円を相続財産に含めずに申告をした。
- その後、税務調査が行われ、解約した定期貯金相当額が相続財産になると税務署に判断され、相続税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。
- 相続人等はその処分に不服があるとして、国税不服審判所に審査請求を行った。
まず、税務署側の主張をまとめると次のようになります。
税務署の主張
- 被相続人Aが本件金員を受領してから死亡するまでの期間が僅か1日であることからすれば、Aが本件金員を費消等する機会はほとんどなかったと認められる。
- この1日において、A名義による資産の取得、債務の返済、多額の費消等がされた事実を確認できない。
- 相続人らの申述からも、費消等した事実を確認できないことから、本件金員はAの管理下において保管されていたと認めるのが相当である。
- したがって、本件金員は、本件相続に係る相続財産である。
一方、納税者は次のように主張しました。
納税者の主張
- Aが過去に多額の現金を金融機関から払い戻したことはないことから、Aには本件金員について、特定の意図を持って解約し、相続人以外の第三者に現金を渡す事情があったものと推定される。
- Aは現金預金の管理を全て相続人に相談することなく自ら行っていたため、相続人らは本件金員の使途を確認しなかった。
- 従って、本件金員は、相続開始時において、Aにより費消又は第三者へ渡されていたと認められるから、本件相続に係る相続財産とはならない。
- 課税対象の財産の存在についての立証責任は税務署が負うべきものであり、行方不明の現金が相続人側に存在すること、あるいはその存在を推定する証拠がない場合は本件金員が存在しないものと考えるべきである。
両者の主張を聴取し事実関係を調査した国税不服審判所は、最終的に次のように判断しました。
国税不服審判所の判断
- 被相続人Aが本件金員を受領したのは午後3時以降であり、同日中に本件金員を費消等する意図を有していたのであれば、現金を受領後、直ちにその意図を実現するための行動をとるのが一般的である。
- しかし、Aは現金受領後どこへも立ち寄ることなく帰宅しており、その後、同居する相続人らが帰宅するまでの短時間に、改めて本件金員を費消等するために持って外出したとは考え難い。
- 相続人らの申述によれば、Aは本件金員を自宅に持ち帰った後、死亡するまでの間に、外出をしたり来客と面会したりしたことはないとのことから、Aが本件金員を費消等する機会は、相当に限定的なものであったといえる。
- 本件金員が約2200万円と高額であることに鑑みれば、不動産等の高額資産の購入が想定されるが、それらを裏付ける契約書や領収書等はなく、本件金員の使途につながるような書類等も保管されていなかった。
- また、Aの自宅周辺等の金融機関において、A及び相続人らの名義による本件金員に相当する額の預貯金の預け入れや公租公課の納付、及び金融機関の債務の弁済もなかった。
- さらに、Aには短時間で金銭を費消するようなギャンブル等の趣味はなく、Aから相続人らへの贈与はされておらず、盗まれた形跡もなかった。
- 以上のことから、本件金員は本件相続の開始時にAが自宅で保管していたと認めるのが相当であり、したがって、本件金員は、本件相続に係る相続財産である。
いかかでしょうか。
国税不服審判所は現物の確認はできなかったものの、客観的に事実関係を調査し、その事実を積み上げて上記のように結論を導き出しました。
本件は死亡日の前日に2200万円を引出したという極端なケースでしたが、単に預金口座から引き出しただけでは相続財産から外すことはできません。
引き出した現金を何に使ったのか、あるいは誰に渡したのか、相続開始日に現金が実在していなかったことを、納税者側が具体的な説明や立証をすることが必要といえます。
今後の参考になれば幸いです。
税理士法人レガート 税理士 服部誠
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