相続専門の税理士(東京/銀座)税理士法人レガート

相続専門税理士 服部 誠 の「相続情報マガジン」

遺留分制度の見直しについて

2019.12.04

2019年7月1日から、“遺留分”に関する制度が見直されました。具体的に、どのような見直しが行われたのでしょうか。また今回の見直しによって、実務的にどのようなメリットが生じるのでしょうか。

1.見直しのポイント

今回の見直しによって、遺留分を侵害された人は、遺贈や贈与を多額に受けて遺留分を侵害した人に対し、遺留分侵害額に相当する分を“金銭”で請求することができるようになりました(金銭債権化)。

加えて、遺贈や贈与を受けた人が遺留分権利者に支払う金銭を直ちに準備することができない場合には、受遺者等が裁判所に対し、その全部または一部の支払いについて期限の猶予を求めることができるようになりました。

これらの見直しは、2019年(令和元年)7月1日より施行されています。

2.従来の制度の問題点

従来の遺留分制度では、遺留分の減殺請求権が行使されることによって、不動産や株式などが共有状態になり、事業承継の支障になるという点が指摘されていました。

しかもその共有割合は、目的財産の評価額等を基準にしているため、分母・分子ともに極めて大きくなるケースが多く、持分権の処分に支障が出る恐れがあったのです。

具体的な事例でみてみましょう。

事例

会社のオーナー経営者であった被相続人が、事業を手伝っていた長男(後継者)に自社株式(評価額1億円)を、長女に預金1,000万円を相続させる旨の遺言を残し死亡した(配偶者は既に死亡)。その後、遺言の内容に不満のある長女が、長男に対して遺留分減殺請求を行った。

【長女の遺留分】

(1億円+1,000万円)×1/2×1/2=2,750万円

【長女の遺留分侵害額】

2,750万円-1,000万円=1,750万円

【従来の対処法】

長男は、遺留分(2,750万円)を侵害された長女から遺留分侵害額(1,750万円)に相当する財産の返還を求められ、結果的に、長男と長女に自社株式が分散する状態となってしまう。

  • 長男が取得する株式:「8,250万/1億」相当 (82.5%)
  • 長女が取得する株式:「1,750万/1億」相当 (17.5%)

3.制度改正のメリット

今回の制度改正によって、遺留分権利者が遺留分減殺請求を行使することによって生じる共有関係を未然に回避でき、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重できるようになりました。

上記の例でいうと、従来の制度では、会社の経営に関わっていない長女にも会社の株式が分散されるという事態が起こり得たわけです。しかし今回の改正により、遺留分侵害額請求によって生じる権利は“金銭債権”となるため、長女は長男に対して遺留分を侵害した金額を金銭で請求することができるようになったのです。

そのため長男としても、遺留分侵害の請求額を金銭で支払うことで、自社株式を渡すことなく解決できるようになりました。これにより、事業承継に不可欠な自社株式や事業用資産自体を、後継者に承継しやすくなるものと思われます。

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