相続専門税理士 服部 誠 の「相続情報マガジン」
生活費の余りを妻が貯蓄していた場合の課税関係について
2018.07.24
夫が妻に毎月一定額を1ヶ月の生活費として渡している家庭で、妻が夫に内緒でその生活費の中から毎月少しずつ妻名義で貯金をしていた場合、どのような課税関係になるでしょうか。
妻は夫から渡された資金で1ヶ月の日常生活に必要なものを賄っているものの、夫はその使途の詳細までは認識していないというケースは多いのではないかと思います。
今回は、「生活費の余りを妻が貯蓄していた」場合の課税関係についてご紹介します。
妻が生活費を貯蓄していた場合の「相続・贈与」の取扱い
まずは、原則から確認しておきましょう。
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものは、贈与税が非課税になるとされています(相続税法第21条の3二)。
この場合の生活費とは、その人にとって通常の日常生活に必要な費用のことです。つまり贈与税がかからない財産とは、生活費として必要であり、直接これらに充てるためのものに限られます。
このことから、夫から妻に渡された金額が1ヶ月の生活費として通常必要となる金額であって、それを妻が毎月生活費として使い切っているものであれば、そこに贈与税が課される余地はありません。
しかし、妻に渡された資金の中から妻が少しずつ自分の名義で貯金をしていたとなりますと、妻に渡されていた資金全額が非課税となる“通常必要な生活費”であったとは言えなくなってしまいます。
そのため、妻名義で貯金されていたものに関しては、たとえそれが生活費として渡されていたものであっても、夫と妻の間のお互いの認識によって課税関係が異なってくることになるのです。
具体的には、次の2つのパターンに分類されます。
1. 妻名義でも夫の財産と認定される場合
夫から妻に毎月一定額の生活費が渡され、妻がそれをやりくりして日々の生活を送っている家庭は多いと思われますが、その生活費のうち余ったお金を妻が貯蓄していた場合には、夫の相続発生時にその帰属が問題になります。
長い年月を経て、その貯蓄額が思わぬ金額に達していることもありますが、課税当局のこの貯蓄の「帰属の認定」次第で、課税関係が左右される場合も出てきます。
具体的には、夫は生活費が余ることを想定しておらず、妻がこの生活費を毎月使い切っていると思っていたような場合には、その余剰金の預金は「夫の預金」と認定されることが考えられます。なぜならば、夫に贈与の意思は存在しないからです。
このような場合には、仮に妻名義の預金であったとしても、夫に相続が発生した場合には、夫の相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。
2.妻の固有財産となる場合
夫が妻に生活費を渡す際に、「自分の裁量でやりくりし、余った分は君の自由にしていいよ(君にあげるよ)」といったやり取りがあった場合はどうなるのでしょうか。
そのようなケースでは、贈与の意思が存在することになりますので、妻が貯蓄する金額を夫に伝えることで、その貯蓄された生活費の一部は、妻が夫からの贈与によって取得したものと判断されます。
従って、このような場合には「名義預金(親族に名義を借りているだけの預金)」とみなされることはありません。夫に相続が発生した場合でも、夫の相続財産に加算する必要はないのです。
夫に贈与する意思があり、妻にも贈与されたという認識がある場合には、両者間での贈与は成立したことになり、妻名義で貯蓄した預金は「妻の固有財産」となります。
ちなみに、妻が贈与で受け取る金額が年間110万円以下であれば贈与税はかからず、贈与税の申告も必要ありません。しかし、妻が贈与で受け取る金額が年間110万円を超える場合には、贈与税の申告納税が必要になるため注意が必要です。
相続税の申告の際は家族名義の貯蓄にも注意を!
相続税の申告書を作成する場合、妻が専業主婦であり、他の収入がなかったにもかかわらず妻名義で多額の預貯金があるようなケースでは、その形成過程を問われることがよくあります。
「名義預金」なのか「贈与されたもの」なのかでその妻名義の預金の取扱いも異なり、「名義預金」と認定されると、夫に相続が発生した際の相続税に影響する可能性があります。
そのような事態にならないよう、妻の固有財産とするためにはその形成過程を明確にしておき、特に夫から贈与されたものである場合には予め“贈与の意思”を明確にしておくことが大切になります。
税理士法人レガート 税理士 服部誠
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