相続専門税理士 服部 誠 の「相続情報マガジン」
社葬の税務上の取り扱い
2024.02.09
会社の創業者や代表取締役が死亡した場合に、葬儀を「社葬」として執り行うことがありますが、葬儀に関する費用を法人(会社)が負担した場合には、「法人税」「所得税」「相続税」といった各種税金に影響が生じるため注意が必要です。今回は社葬の費用を法人が負担した場合の税務上の取り扱いについて解説いたします。
法人税の取り扱い
法人が社葬を行う場合の社葬費用に関しては、法人税法基本通達において以下のように定められています。
(法人税法基本通達9-7-19)
法人が、その役員又は使用人が死亡したため社葬を行い、その費用を負担した場合において、その社葬を行うことが社会通念上相当と認められるときは、その負担した金額のうち社葬のために通常要すると認められる部分の金額は、その支出した日の属する事業年度の損金の額に算入することができるものとする。
まず、「社葬を行うことが社会通念上相当」とは、亡くなった方と会社との関連性や、亡くなった方の会社における地位、亡くなったときの状況や死亡原因などを勘案し、会社がその方の功績を称える事情があるかどうかが判断のポイントになります。
一般的には、創業者や社業に大きく貢献した歴代の代表者、あるいは職責を果たそうとして命を落とした方などが、社会通念上相当と認められるケースとされています。
そして、「社葬のために通常要する部分の金額」とは、通常は会葬のための費用と考えられており、遺族が負担すべき火葬料や戒名料、墓地・墓石の購入費用、法要等の費用は含まれないとされています。具体的には次に掲げる費用が会社負担として是認されるものになります。
- 葬儀会場の設営費用
- 生花、祭壇等の飾りつけの費用
- 屋外の設備費用や新聞等の広告費用
- 通夜、告別式での読経料(お布施)
- 葬儀会場での飲食代
- 葬儀委員長や受付などへの御礼やアルバイト代
- 会葬に関する御礼状や返礼品の費用 など
所得税の取り扱い
法人負担が認められるものとして上記の諸費用がある一方で、法人負担が認められないものとしては次のようなものがあります。
- 火葬、埋葬、納骨に係る費用
- 本葬後の法要の費用
- 香典返しの費用
- 墓地、墓石、仏壇等の購入費用 など
これらは遺族が負担すべきものとされているため、その費用を法人が負担し、遺族が法人の役員である場合には、その負担金額は役員に対する臨時の給与(役員賞与)として取扱われます。法人では損金不算入となり、役員本人には所得税・住民税が課されることになるので注意が必要です。
なお、社葬の際に受け取る香典は法人の収入になるのか、個人(遺族)の収入になるのか、疑問になる点ですが、これに関しては国税庁の公式見解において「香典は法人の収入とせずに遺族の収入とすることができる」と明記されています。
費用収益対応の原則からは、香典は葬儀費用を負担する法人の収入にすべきと考えたいところですが、故人の冥福を祈るために参列者が遺族に持参するものという香典の本質を考えて、遺族の収入とすることを国も認めています。そして、遺族が受け取る香典収入は非課税として取扱っています。
相続税の取り扱い
法人が負担する社葬費用以外の費用で、葬式の前後に生じた費用のうち通常葬式に欠かせない費用を遺族が負担した場合には、相続税の計算上、一定の葬式費用を遺産総額から差し引くことができます。個人で負担した葬式費用については相続税の計算上、忘れずに控除するようにしましょう。
また、社葬を行う法人が未上場の会社で、その法人の株式を亡くなった方が保有していた場合には、その法人の株式の純資産価額方式の計算上、社葬費用を債務として取扱って株価の計算を行うことが認められています。ここは意外と漏れやすい点になりますので、株式評価の計算の際は債務として計上することを忘れないようご注意ください。
このように、葬儀を社葬として執り行う場合には、それぞれの支払いに関する税務上の取り扱いに注意して支払者を決める必要があります。想定外の税負担が生じないようにしたいものです。
以上、今後のご参考になれば幸いです。
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